「風物語 ~かざみどり~」

※全年齢向けに記載しております。
※本編の流れを記載しておりますが、執筆中に変更が必要な際はこちらの内容も適宜改訂していきます。
※作品のネタバレを含みます。

◆ Dear 01 怪盗の子

 烏羽凪(からすばなぎ)は人相の悪い者たちから逃れるため、また失踪した父親を探すために一文無しのまま各地を転々としていた。
 昔から“自身にのみ聞こえる”謎の声を頼りに危険と隣り合わせな獣道を日が暮れるまで歩き続けていた。
 日が沈んだ頃、ようやく街へ辿り着いたが、まともな食にありつけなかったことと、蓄積された疲労は大雪に耐えきれず倒れてしまう。
 凪を見つけた者は密輸で捜査対象となっていたジンの一味。彼らは瀕死寸前の凪をそのまま拐い、理不尽な暴力等により心身共に苦痛を与えていった。
 この背景には凪の父親が怪盗のコガラシであり、ジンが狙う財宝をコガラシが先に奪ってしまうことに対して憤怒していた。コガラシに仕返しをするため娘を痛め付け、純潔まで奪ってしまう。
 取り返しがつかないところまで凪は絶望に満ちた時、ジンの動向を探っていた里見の第二課第一部隊がアジトを襲撃する。この隊の新任隊長である鷹司朝日(たかつかさあさひ)は五年もの探していた恩人である凪を保護する。

◆ Dear 02 隷代の使用人

 保護され、適切な治療を施し、医師も驚くほど早く外傷の方は完治した。しかし心の傷は深く失語となっていた。
 父親の疾風が怪盗コガラシの為、階級は隷代(※奴隷)として扱われる。もはやヒトとしても扱われていない彼女に突きつけられたのは高額な治療費であった。
 だが、治療費は朝日が一括で支払う。真面目すぎる凪は肩代わりに支払う朝日に申し訳なさを感じ、何とかして返済する旨を伝える。この治療費の完済と凪の監視の為、王命により鷹司家の当主である朝日と雇用契約する。条件は衣食住付きだが手取り無し、給与全額治療費(借金)へ充てることとし鷹司家の使用人として働くこととなる。
 王宮内に庶民以下が立ち入ることは暗黙のルールとして禁じられており、隷代が使用人として働くことは前代未聞であった。凪は魔法の心得があり、隷代でありながら反抗される懸念も少なからずあった為、朝日の「真偽の目」の力を宿した毒と麻酔仕込みの腕輪と足枷をつけられる。
 物珍しさにより王族や華族の遣いを筆頭に苛めに遭うが、どんなに酷い仕打ちにされても文句の欠片は生まれることなく、ひた向きに働く彼女の姿を見て鷹司家の使用人達は凪を認めていく。

◆ Dear 03 ある雨の日に

 仕事に慣れてきた梅雨時頃。九条(くじょう)家に呼び出される。九条家の家督を預かる兜(かぶと)の娘である六花(りっか)は凪に興味を抱いていた。
 無茶難題な用を押し付けてもコツコツとこなしていく凪に対し「確かによく働く野良犬」と思う。
 少しも休むことなく働きすぎな凪を心配した朝日は仕事の一貫として藤と紫陽花が有名な庭園へと連れていく。あまりにも優しい言葉をかける雇い主に心を動かされ、知らず知らずに辛く感じていた感情が一気に溢れてしまう。凪の涙を優しく指で拭う朝日の様子を偶然目にしてしまった六花はどす黒い感情を抱くようになる。
 実は六花は双方の親である九条兜と鷹司太陽の“話し合い”により、朝日と婚約を結んでいた。もともと朝日に対しては何も興味を抱いていなかったが、庶民暮らしを経験したことがある朝日の言葉に心を動かされ、朝日に対して恋心が芽生えていた。しかし、朝日から六花を求めることはこれまで一度も無かった。
 ある日、王が視察に出掛けた日。王の迎えの為に宵の壬の刻(17時頃)に南門の前へ集合と六花より直々に指示を受ける。しかしそれは嘘で、本当は別の門から王は帰還していた。王族の命令は腕輪と足枷に記録されるため、凪は一人、南門の前で迎える姿勢で待っていた。
 酉の刻(20時頃)、任務から戻ってきた朝日は作り置きの夕食が1食分残されていることに気づく。凪が不在であることに気づき王宮内を探すが見つかることが無かった。
 位置探査しようやく見つけた凪は夕方頃より降りだした雨に濡れてずぶ濡れで、懸命に王の帰還の為、集合場所から一歩も離れず佇んでいた。蓄積された疲労と雨により体温は失われ風邪をひいてしまう。迷惑かけてばかりな自身に涙する凪を見た朝日と使用人達は混沌とする身分制度を変える決意をする。