ドアノブを引き、寝室へ向かう。言いつけ通りに衣を脱ぎ、厚手の掛け布団で体全身をくるんでいた。寝台に上り、二人用の大きさの布に手をかける。
健康そうな肌色が布の隙間より覗かせる。直に触れてみれば何度も触りたくなるほど艶のある肌。両腕で彼女の体を包み込む。子供の体温かと思えるほど温かい。
「温かい……」
目尻を下げ、小声で言う。こっちの台詞だぞと心のなかで思いながら小さく息で笑い、そっと彼女の唇を重ねる。丸い肩を優しく押す。
久方ぶりの男女の営み。狭くなった蜜の口を押し広げ、どちらの欲かも分からなくなるほど分泌物を混ぜ合う。隙間から漏れる白濁の液と小刻みに震わす体に酔い、愛する者の真名を呼び合いながら夜の時間を満たす。
世間的には主従の仲だが熱を帯びた表情と男を誘う声調で“サルィエンテ”なんて呼ばれてしまえば、絶頂に達した後でも欲に応じようと男根は反り返る。どうしようもないなと自嘲しつつ、彼女の体へ再び重ねる。
眠気が差し掛かっても繋がる体を手離したくは無かった。彼女の香りに包まれ、幸福感を噛み締めながらそっと目を閉じる。
「……と、いう夢を見た」
肩を落とす従兄弟を哀れに想いながら重なる書類一つ一つに捺印していく。
「今日で……十年?」
穂がそのように尋ねれば疲れた表情を浮かべた朝日は静かに頷く。
白の花束を抱え、渓谷の大樹へ向かう。蕾をいくつもつかせた桜。満開になる日を待ち望む声を鮮明に思い出す。
「ごめんな……」
今年の開口一番も謝罪の言葉から始まった。
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