覚書

 マスターは瓶の口を盛り合わせたフルーツの頂きから黄金色の液体を注いでいく。瓶の中で無数の細かな泡がシュワシュワと音を立てて散らす。

 芳醇な葡萄の香りが広がる。彼に催促され、そっと口に含む。

 液体であるはずが、舌の上個体の物を口に入れているような感触だ。苦み、渋み、甘みが広がり、飲み込むと暫く喉の奥で味が引っ掛かる感触。努が持ち帰るようなお酒とは違う。

 少しずつ頭の中がふわふわしてくる。飲める分だけでいいぞと彼は言うが、マスター曰く、なかなか口にできるものでは無いとのこと。凪は勿体なくて残すことなどできなかった。

「おい、大丈夫か?」

 凪はいつの間にか机に打っ伏していた。まだ、頭の中がふわふわしている。

 朝日はマスターに頼み温かいお茶を用意してもらう。彼女の前に差し出し、ユックリと飲むように勧める。

 隣に座る朝日にそっと体を預ける。まだ遠慮しがちな彼女からすり寄ることは滅多に無い。彼もまんざらでもない様子で腰に腕を回し引き寄せる。

 誰も知らない二人の関係。緩やかに過ぎるこの時間が永遠に続けばいいのに。秒針は明日に向かって規則正しく向かって行く……。