殴られた頬を擦りながら起き上がる。体を起こした瞬間、久々に喉の渇きと空腹感を覚える。五日ぶりに生者になったような気分だ。
「ミノの言う通りだな。息子を守れるのは俺しかいない」
枕もとの煤まみれな指輪を手に取り寝室を出る。窓から見える空は五年前に見た銀河の雲が渦潮のような渦を巻きながら広がっている。
「ヴェルド=モンド……完全に消滅まではいってなかったんだぞ」
空に向かって問いかける。返答はないが雲はあざ笑うように見える。
「テラに……何を恨んでいるんだぞ」
繋がったまま眠ってしまった日の夢。現実味があるがアーベルとは違う場所。誰かを通してみたあの夢は“世界(ヴェルド)”の都合で滅ぼされた星だった。
凪(ユイ)に宿った風の神子(テラ)を完全に消さなければならない理由は何か。
「“世界を穿つ”存在なのか?」
解は無い。
余計なことを考えず、まずは風呂場へ行く。長くなり過ぎた髪をひと思いに斬り、短くなった髪に向けてシャワーの雨を降らす。
嗚咽が漏れる。いくら願えど彼女はもう帰って来ない。
脱衣所の通信機に新着のメッセージが入る。
件名「キャンセル料の請求につきまして」
補足。凪の悲劇は結婚式の前日でした。
キャンセル料は式場からのものです
王都周辺では”アレ”な事件が起こりますが、それ以外の地域では日常通りなのです。
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