覚書

 全ての部屋を確認する。久々に戻った凪の家は想像していたよりも綺麗であった。朝日に鍵を渡す直前まで疾風はこの家を拠点としていたのであろう。

 ただ、一か所。凪の両親が使用していた部屋だけは家具が真新しくなっていた。誰かに家を譲る意思を感じる。

 特にベッド。大人二人は余裕をもって寝転べそうなそれは、どのようなものであるのか察し、朝日は一つ大きなため息をつく。

「親父さん、気ぃ利かせすぎだぞ」

 朝日は頭をかきながらベッドの傍へ寄りしゃがむ。掛け布団を捲り脇をのぞけば「やっぱりな……」と呟いた。凪も朝日の傍へ寄りその場所を覗くと“シメオン”と書かれたロゴが刻印されている。

 ーー凄いところなのかな?

 そっと掛け布団に触れてみる。沈めた手を優しく包み込む。冬場に寝転んでしまえば朝起きるのが辛くなりそうなほど触り心地が良いものであった。

「こりゃいい夢見れそうだぞ」

 朝日はにこやかな笑みを浮かべながら立ち上がり、両親の寝室だった部屋から離れていった。