覚書

 大豆の種子を殻が付いたまま焙煎し、湯で煮出したものをグラスに注ぐ。氷が解けてカランと音を鳴らす。

「神子様、お茶をお持ち致しました」

 まだ若い青年の呼びかけに応じ、ひ弱そうな小さな手がグラスを受け取る。

 有難う御座いますと、お礼の言葉と共に微笑む彼女の姿は、昼中(ひるなか)の勇ましさは消え、一人の“普通の女の子”だ。

「あの……できればですが名前で呼んでいただけますかね」

 神子はよそよそしそうに提案する。

「人って呼び方で距離感が変わる気がしますし。正直、神子と呼ばれ慣れていないのです」

 ーーだって、私は隷代ですから。


 なぜ、ヒトは線引きするのだろうか。何も悪いことをしていない彼女は、ヒトとして過ごすことを罪とされる。

 隷代は関わるな。隷代はいなくなればいい。存在させるならば手綱をつけなさい。当たり前のように親から子の世代に伝えられた世の倫理に疑問を抱いたものは僕以外にいないのだろうか。