覚書

 うつ伏せになる彼女の背に触れる。こっそりと肩甲骨につけた赤い華を中心に、その武骨な手はまるで子をあやすように優しく叩く。心の中で広がる安らぎは日々のストレスを薄めていく。

 凪はある一点を一心に舐め続けている。

 ーー痛めたところ、分かんのかな……。

 敵の罠で足を滑らせ、軽度ではあるが左足首を挫いていた。努の回復魔法は効果はあるが、戦闘以外で男に治療されるのは気が引けてしまい、何事もないフリをして鷹司邸へ戻った。

 痛みは徐々に増していき何も食べずに眠りについた所だ。ーーなぜ今、お互いに素肌を晒しているのか全く思い出せないが、温かく、ざらつきのある舌が身を案じて舐める姿は“別の感情”を沸き上がらせるものがある。

 ーー舐めてほしいな……。

 違うところを。

 自身の腰回りに被せていた掛け布団の下にあるものを純真な瞳に映させる。不安げにどうすればいいの? と、心の声が聞こえてくる気がした。

「口を開けて?」

 我ながら何を要求しているのか。

 健康そうでぷっくりとした唇を少しずつ開きながら遠慮がちに熱源へと近づいてきた。


 視界が晴れやかになる。障子越しに差し込む朝の光が目元を照らす。

 ガバッと音を立てながら彼は起き上がる。

「夢かよ……」

 沸き上がった欲情は形になっているが、早出のため処理はできず、はだける寝巻きを整え、微かに足を引きずりながら仕事へ行く仕度を始めた。