覚書

 ーーなぜ、アンクレットを渡したんだろう。

 今更になって自身に問いかける。

 隷代制度が撤廃し、階級意識の強い地域ではすでに混乱が起こり始めている。反乱が起こる地域の情報を得れば、彼女は有無も言わさずに一人で向かい、“神子として”仲裁して戻ってくるのだ。

 里見の業務も増え、共に過ごす時間は減り、どことなしか寂しさを感じる。同じ空間を共有している筈なのにすれ違いを感じてしまう。

 布団の中で眠る彼女の腕は日を増すごとに擦り傷や切り傷が増えていた。今日は火傷の跡があった。

 彼女のことだ。自分のことは度外視。苦手な治癒術は全て他人に施しているのだろう。

 自身も無茶をすることは多く、人のことは言えないが……。

「倒れたら元も子もないぞ……」

 リビングにある木製の机の上には配膳済みの料理が並べられている。久々の彼女の手料理は冷たくなっていた。

 深更の風を肌に感じつつ、それを口にする。自分が調理するものよりもほんの少し味が濃かった。